2016年12月4日日曜日

Arduous Learning of English for a Science Student (4)

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (1)
Arduous Learning of English for a Science Student (2)
Arduous Learning of English for a Science Student (3)

[前回のあらすじ]
実験をしたがうまくいかなかった。

葉はあまり黄色くならずにカビてしまった。一体何が良くなかったのだろうか?私とA君は話し合って、次の2点を変更することにした。
①常温保管をやめる。Ziplocは冷蔵庫にしまう。
②リンゴを擦り下ろさない。「傷つく」どころではなく細胞が壊れるとホルモンの生産も止まってしまうのではないかと考えた。

ALESSに取り組む学生を支援するため、東大にはALESS-labという組織がある。ALESS-labでは、ALESSの実験に使う器具を貸してくれたり、備え付けの実験器具を予約で使わせてくれたりする。前回の実験の時は大変混雑していて断念したのだが、今度は以前よりも空いていたため、ALESS-labの部屋で実験準備を行うことができた。これにより我々は公園の不審者にならずに済んだ。
大学にリンゴを持ってきて、昼休みに2人で集まってカットし、皮,果肉,芯に分け、それらのブロックを20gずつ取りZiplocに入れた。これで昼休みは潰れたが、ともかく実験を再開することができた。
ところが、今度は1週間ほど経っても葉の色が変化しなかった。ただ葉はしおれるのみだった。我々は3度目の実験が必要だと感じた。

再びALESS-labを訪れた我々は、ついに糖度計を借りることができた(*1)。喜び勇んだ我々は、またまたリンゴを買ってきた。今度はホウレンソウの代わりにリンゴの果肉片を入れ、リンゴ果肉の糖度変化でエチレンを調べることにした。糖度ならば、色よりもはっきり変化が出ると思われた。
糖度計は、果汁を入れることで測定を行う仕組みだったため、果汁を多く含んでいるリンゴは測定に適していた。ただ、この方法では測定ごとに果肉片をすったり潰したりするため、段々果肉片が目減りしていく。そこで、測定は1日おきではなく3日おきとした。今まで保管と測定は私が行っていたので、今度はA君に保管を頼んだ。我々は3度目のリスタートを切った。これに失敗したら、もうやり直せる時間はないだろう。これが最後のチャンスだった。

後日、私はA君から「リンゴ果肉が乾燥してしまい果汁を取ることができなかった。測定は無理だった」という報告を受けた。A君がどんな環境で保管していたのかはよく分からない。

我々は実験にことごとく失敗した(*2)。もはやこれ以上の実験は不可能だと判断し、2人でこれからどうするか話し合った。その結果、我々は最初の実験でカビる直前までのデータを使って論文を書くことにした。全然色の変化がなかった2回目と比べ、多少なりとも黄色くなる兆しが見られた最初の実験の方がマシだろうと考えたのである。
度重なる実験の失敗で、私はすっかり疲弊していた。平日で最も授業が少なく楽だった曜日が木曜日だったが、その楽さは実験準備に追われ潰れてしまった。更に、なるべく時間を見つけて線形代数を自習していたが、学習しても学習しても授業に追いつけず(*3)、7月に控えた試験から重圧を強く感じるようになった。しかし、成績は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる(*4)。平日の余裕が失われたしわ寄せは土日が受けた。土曜日はサークルに行くことが多かったが、それもやめてしまった。日曜日の深夜にALESSの課題を行うことは常態化し(*5)、そのため遅刻も毎週になった(*6)。
この頃になると授業で何をやっていたのかあまり覚えていない。ピア・レビューのため書き進めた論文をプリントして持ってくることになっていたが、一度文字化けして読めない論文を持ってきてしまったことは記憶にある。せっかくやった課題の提出を忘れていたこともあったと思う。

我々は実験をギリギリまでやっていたため、普通ならば実験データを解析し終わっていなければならなかったが、まだ手をつけていなかった。画像解析ソフトを利用し、葉の部分を色をRGBに分解した(*7)。R+Gが黄色であるから、初めはRよりGの方が大きく、その後Rの値が増えればより黄色くなったと言えそうである。結果をグラフにまとめてみた。そのうちの一つ、「皮」についてのデータを次に示す。

「皮」グループのほうれん草の色の変化。青が初日、赤が4日目。
解析してみるまでもなくわかっていたことだが、ほとんど変化がない。また、1グループあたり3枚の葉を入れていたが、3つしかないデータの平均を取ってエラーバー(*8)をつけると、それはそれは大きくなってしまうのだ。エラーバーがあまりにも大きすぎて何も言えることがない。もはや変わっているどころか変わっていないとも言えない。他の3グループについても同様だった。
「何もわからなかった」ではどうしようもないので、とりあえず微妙な差を取り出して適当に論じて(*9)考察を終えた。そして私の論文が出来上がった。

論文が出来上がってもまだALESSは終わりでない。最後に、論文に基づいてグループごとに英語で発表することになっている。
このころの私の生活はひどいものになっていた。まず、掃除する余裕を失っていたことで部屋が汚くなっていた。季節は7月の頭。汚い部屋と夏の暑さが合わさって大量のハエが部屋に発生していた。とても衛生的とは言えそうにない。更に、ALESSの課題が主な原因となって日曜日に夜更かしを繰り返したため、生活リズムが歪んで夜にうまく眠れなくなっていた。私が論文を完成させたのも、午前6時前のことであった(*10)。
日々の疲れ、不規則な生活習慣、不衛生な住環境などの条件が揃った結果、私は風邪をひいた。ALESS-programを作った英語部会が決定的に嫌いになったのは、確かこの時だっただろうか。数日間を療養で潰し、無理をすれば(*11)出席できるようになった。それでも喉は痛かった。休日が潰れたのでまともに練習もできておらず、ぶっつけ本番の発表となった。
発表の結果は散々だった。声がまともに出なかったことと練習の不足のために時間を大きく超過してしまい、重要な部分をうまく説明できず発表が終わってしまった。
かくして私のALESSは幕を閉じた。それは期末試験の足音が近づく、夏の日の出来事だった。(続く)

(*1)これは何を意味しているのか?我々が実験を何度もやり直しているうちに、実験をやっておくべきシーズンは過ぎてしまい、ALESS-labの利用者もめっきり減っていたのである。この辺り、一回あたり1週間もかかる実験だったことが災いした。
(*2)「結果の分からない」実験をしろと言われて結果の分からない実験をしたのだから、失敗が起こるのは当たり前である。もちろん、結果が当初に想定していたものと異なっていたとしても、その旨を報告すれば全く問題ない。それはそれで面白い結果であろう。しかし、我々の失敗はもっと根本的な失敗であり、データが満足に取れないという出来事が続いてしまった。ALESSはそうした失敗を許容するように設計されていない。「数字の出る」実験が要請されている以上、「数字を出せなかった」実験は用無しも同然だ。実はALESSでは「結果の分からない」実験をしろと言われて「本当に結果の分からない」実験をしてはいけないのである。まことに茶番だといえよう。
(*3)これは、戸瀬教員の教え方が少なくとも私に合っていなかったことが背景にある。先生は一般的な線形代数の教え方とは異なる順番で教えていたため、授業で何をやっているのか理解しがたく、その上参考書を借りて読んでも授業の内容がなかなか出てこないという状況に陥った。
(*4) Atsushi, N. (1942) Sangetsuki. Bungakukai.
(*5)課題の提出期限は月曜日の朝6時だった。
(*6)毎週5分遅れていた。出席を取る時、先生は私がいないことを確認して"Ah, he will come in five minutes."と言っていたそうだ。
(*7)私がパソコンに画像解析ソフトを入れようともたもたしているうちに、この作業は全てA君が手際よくやってくれた。大変ありがたかった。
(*8)エラーバーはデータの不確かさを表す。次に実験を行った時、エラーバーの中に95パーセントの確率で値が収まる。エラーバーが大きいというのは、値がぼやけているということである。そういえば、予習ビデオか授業でエラーバーの説明を受けたことは覚えている。課題は厳しかったが、先生の説明がわかりやすかったのは確かである。
(*9)科学的にはいい加減な内容ではあるが、なんとか結論らしきものを引き出そうと私なりに頑張って書いた。学生のALESSに対する取り組みを支援する組織にはALESS-Labの他にKWS(Komaba Writer's Studio)というものがある。ALESS-labが実験の面から学生をサポートするのに対して、KWSは英語の面からサポートしてくれる。具体的には、書いた論文を持って行くと、TAの方に読んでもらってどうすれば論文がより良くなるか一緒に議論してくれる。私は空きコマの合間でKWSに行って考察部分を読んでもらった。しかしKWSに行ったところで、私の考察における根本的な問題は解決されるものでもなかった。
(*10)高校時代は部活で天文をやっていたが、観測の日でさえ午前3時過ぎには寝ていたものだった。部活を引退してからというもの、早く寝て長い睡眠をとる生活を1年ほど続けていたのもあって、睡眠に関する問題はストレスとなっていた。大学生は平気で徹夜をするようだが、よくやるものである。
(*11)Final Presentationを欠席でもすればどれほど点が引かれるか分かったものではないと思った。冷静に考えれば、おそらく教員にメールを送って次週にずらしてもらうのが正解だったのだろう。

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)

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