2016年11月6日日曜日

Arduous Learning of English for a Science Student (2)

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (1)

[前回のあらすじ]
自分で実験して論文を書く授業「ALESS」が始まった私に、論文を探して読む課題が与えられた。

論文を探す方法として、ALESSの授業ではgoogle scholarが挙げられていた。図書館に入りパソコンを立ち上げ、波について検索を始めた。
ところが早速壁にぶつかった。読める論文がないのである。しっかり読む必要はなく、Scanningしろとは言われたものの、それにしても読めない。それは考えてみれば当然のことで、インターネットにあるような古くない(*1)論文は高校物理程度の知識で太刀打ちできる代物ではないのである。そうこうしているうちに図書館の閉館時間が来てしまった。授業は翌日だった。私は出てきた論文を適当に選んで印刷して、それを持って行きお茶を濁すことにした。

授業が始まった。グループの3人で論文を持ち寄って、話し合いをすることになった。ところが、始まってすぐに問題が発生した。誰一人まともに内容を説明できないのである。事情はA,Bの2人にとっても同様であった。有意義な話し合いができないままその週の授業は終わり、「実験を提案する」という課題が出た。
ALESSの実験にはルールがある。第一に、特別な道具や薬品なしで行わねばならない。ハカリなどは貸してくれるが、必要なものは基本的に自費で賄うことになっている。第二に、やってみるまで結果のわからない、「正しい結果」のない実験を計画しなけばならない。第三に、すでにある論文を基にして問題を提起することで実験を構築せねばならない。
論文を持ってくるだけならなんとかごまかせたものの、このまま実験を提案するのには無理がありそうだった。物理学系のテーマにした場合、仮に読める論文があったところで「それを発展させて、特別な機器を使わずに、結果の予測できない実験をしろ」と言われたら途方に暮れてしまうだろう。物理系や化学系の内容はやめ、生物系か心理系でテーマを決めた方が良さそうだ。我々はテーマを根本的に変えることにした。

B君は多忙らしいということで、私とA君が放課後話し合った。私に会うなり、A君は「植物ホルモンの1つ、エチレンで何か実験ができないだろうか」と提案した。エチレンには様々な作用がある(*2)が、とりわけ果物などの成熟や老化を早める作用で知られている(*3)。例えば、リンゴをまだ青いバナナの近くで保管すると、バナナは早く黄色くなる。これはリンゴがエチレンを多く放出する果物だからである。
エチレンを調べるというのは今までとは全く違う方向性である。どこからこのアイデアが降ってきたのかわからないが、とにかく乗っかって考えてみることにした。2人でエチレンについて情報を集めながら実験の案を出しあった結果、
「リンゴを部分に分け、どこが最もエチレンを出すか調べよう。エチレンの多さは、糖度計で横に置いたバナナの糖度変化を見ることで間接的に測れるだろう。」
という結論に落ち着いた。

テーマが変わったので、新たに論文を見つけて前週分を提出し直さねばならない。このスタート時点から、我々はマイナスの位置にいたのだ。課題の流れを逆走し、計画した実験に関連してそうな論文を探すことにした。
なんとか「キウイでエチレンを最も出している部位は皮の付近である」という内容の論文(*4)を見つけることができ、これに伴ってリンゴは皮/果肉/芯に分けることにした。先生にテーマの変更の旨をメールで申し立て、受理された。2週分の課題をやったので疲れた。

次の課題は、仮説を立て"Introduction"を書くことだった。さらに論文を収集し、既存の論文から「リンゴのどこからエチレンが出ているのか」という疑問にたどり着くまでをでっち上げた。「酸素があるほどエチレンの合成が活発」との論文(*5)に基づき、皮の方が多いだろうと仮説を立てた。前よりはマシとはいえ、やはり論文を読むのは骨が折れた。用語が難しいというのも要因の一つであるし、探して使えるものだけが論文中に採用される以上、実際に論文中で引用する以上の数を読まねばならなかったというのもある。
その次はMethodを書いた。実験の方法を書くところである。計画を詳細に書いた(*6)。ここでは、受動態を多く使うなどして、なるべくWeを使わない書き方を学んだ。

この時は、確かゴールデンウィークが終わった頃だっただろうか。ALESSは月曜2限の授業だったが、月曜3限,水曜2限のイタリア語では毎週月曜に小テストが行われていた。4月は直前の暗記で切り抜けていたが、4月後半にもなるとその方法では厳しくなって小テストの点数が下降してきた。また、5月上旬~中旬には熱力学の授業がさっぱりわからなくなり、授業は手の運動となっていった。線形代数についても、かなりの内容が理解できなくなった(*7)。私は自習を始めた(*8)。
そんな中、ALESSの課題は少しずつ負担となっていった。英語で論理的な文章を書くのは思いの他時間がかかるのである(*9)。面倒なALESSは後回しにしがちになって、日曜の夜の寝る時間がだんだん遅くなってしまった(*10)。結果として、2限のALESSに遅刻することが増えていった。

実験の開始が指示されたのは、大体それくらいの時分だった。(続く)

(*1)高校物理での最も新しい内容がド・ブロイ波で、1924年のことである。なお、仮にド・ブロイ波の論文があったとして、自宅では実験できない。
(*2)Lin, Z., Zhong, S., & Grierson, D. (2009). Recent advances in ethylene research. Journal of Experimental Botany , 60 (12).
(*3)食品をよりよく保管するため、様々なエチレンの研究が行われてきた。Riov, J., & Yang, S. F. (1982). Autoinhibition of Ethylene Productioni n Citrus Peel Discs. Plant Physiology , 69 (3), 687-690./Ketsa, S., Chidtragool, S., Klein, J. D., & Lurie, S. (1999). Ethylene synthesis in mango fruit following heat treatment. Postharvest Biology and Technology , 15 (1), 65-72.など。
(*4)Agar, I. T., Massantini, R., Hess-Pierce, B., & Kader, A. A. (1999, May). Postharvest CO2 and Ethylene Production and Quality Maintenance of Fresh-Cut Kiwifruit Slices. Journal of Food Science, 64(3), 433-440.
(*5)Lieberman, M., & Kunishi, A. (1966, March). Stimulation of Ethylene Production in Apple Tissue Slices by Methionine. Plant Physiology, 41(3), 376-382. 仮説は既存の論文中の根拠に基づいて立てよ、と指示された記憶がある。
(*6)ただし、使うリンゴの量などは、実際に実験するまでいい加減なことを書いていてもよい。
(*7)正確には「数理科学基礎」という授業の戸瀬先生担当分である。戸瀬先生はのちの線形代数の教員だったこと、また「数理科学基礎」の共通テキストからかなり逸脱した内容を教えておりもはや数理科学基礎ではなかったことからこう表現した。
(*8)自習によりイタリア語は立て直した。イタリア語の次は線形代数の自習に移ったが、こちらは自習しても立て直せなかった。熱力学は放置していた。
(*9)日本語の文章でさえ時間がかかる。(参考:書く速度ω)
(*10)このあたりは自業自得である。

リンク:
Arduous Learning of English for a Science Student (3)
Arduous Learning of English for a Science Student (4)
Arduous Learning of English for a Science Student (5)
Arduous Learning of English for a Science Student (Appendix)

0 件のコメント: